就労者の6割が疲労感を自覚
記録的な猛暑を記録した2022年の夏。暑さによる食欲不振や疲れ、寝不足といった、いわゆる「夏バテ」に苦しんだ方も多いのではないでしょうか?
9月に入ってやっと涼しくなるかと思いきや、依然として日本各地で連日最高気温が30℃を超え、寝苦しい夜が続いています。このままでは、夏バテからリカバリーする間もなく、秋を迎えることになりそうですよね。
しかし、「疲れ」を放置することは、心身に想像以上に大きなダメージを与え、積もり積もれば仕事のパフォーマンスの低下や心神喪失、最悪の場合にはうつ病の発症といった大きなリスクを招きかねません。その意味で、しっかり休養して体をリカバリーさせることは、長い目でみると、将来の自分への「投資」でもあるのです。
ただ、日本では残念なことに休養の大切さが重視されているとはいえません。少し古いデータですが、1998年に厚生労働省疲労研究班が行った疫学調査では、疲労感を自覚している人の割合は就労者の約60%にのぼり、6か月以上の長い期間疲労感を引きずっている方が全体の40%近く居ることという衝撃的な結果が明らかになりました。この調査からすでに20年以上が通過して社会活動のスピードはますます加速化している今、これらの割合はさらに高まっていることが推察されます。
しかし、これまで日本では「疲労は病気ではないから、休めば治る」という認識が強く、そのリカバリーについては特に重視されてきませんでした。でも、もしも疲労がなければ・・・と想像してみください。心身ともすっきりと目覚め、だるさや眠気に悩まされることなく仕事がサクサクと進められてパフォーマンスが向上し、生産性が上がるだけでなく、QOLも格段に向上することは間違いないでしょう。「疲れがたまって、せっかくの休日も昼まで起きられない」なんていう悪習慣とサヨナラできれば、余暇をより有意義に使うことができ、趣味を楽しんだり、はたまた副業で成果を上げたりすることも不可能ではありません。近年では、ビジネスの世界でも、休養の重要さとメリットに着目し、オフィスに仮眠室やマッサージルーム、瞑想室などを設けるところが相次いでいます。
疲労の原因によって、必要な休養のタイプは異なる
休養の大切さは理解できても、どのように休めばよいかわからないという人も多いのではないでしょうか。
そこで参考にしたいのが、日本で初めて休養(リカバリー)リテラシー向上のために設立された一般社団法人日本リカバリー協会による「休養モデル」です。同協会では、休養を①生理的休養、②心理的休養、③社会的休養の3つに分けた上で、休養のタイプを「休息型」、「運動型」、「栄養型」、「親交型」、「娯楽型」、「造形・想像型」、「転換型」の7タイプに分けています(各タイプの詳細は、下図参照)。これをみると、なるほど休養には、疲労の原因に応じて様々な方法があることがわかります。たとえば、「睡眠時間は足りているのに疲れが取れない」という人は、心理的・社会的な休養が必要なのかもしれません。
最も実践されているのは「娯楽型」
一般社団法人日本リカバリー協会の調査によると、上記7つの休養タイプのうち、2021年に最も多くの人が実践したのが「娯楽型」で全体の36.8%。次いで「親交型」で36.7%、「運動型」で33.3%。活力向上(疲労解消)というと、まず想起される「休息型」29.3%で、それほど高くないことがわかりました。体を休めることよりも、楽しい時間を過ごしたり、体を動かしたりする生理的休養を求める人が多いことが見て取れます。
また、男女別の調査結果を見ると、男性は「娯楽型」34.2%、「栄養型」32.5%、女性は「親交型」44.2%、「娯楽型」39.4%が高い結果に。多くの休養行動で女性の方が実践率が高くなっていますが、唯一、造形・想像タイプのみは男性の実施率が高い結果となりました。日曜大工や趣味のプラモデル作りなど、何かを作ることで心理的な疲れを癒している男性が多いのかもしれません。
リカバリー市場、2030年は14.1兆円規模に?
ところで、上記の休養方法を見ると、あることに気づきませんか?
そう、休養にはお金がかかるということです。単に体を休めるだけならコストはかかりませんが、美味しいものを食べたり、人と会って交流を深めたり、趣味や嗜好を楽しんだりするには、お金がかかります。特に、旅行や買い物、食事や部屋の模様替えなど、外部環境を変化させることで心身の活力を養う「転換型」の娯楽は、その典型。いわゆる「自分へのごほうび」として高価なものを食べたり、旅行に行ったり、欲しいものを衝動買いしたりして、ストレスを解消した経験のある人も少なくないでしょう。
一般社団法人日本リカバリー協会が、こういった休養に費やされる支出の市場規模を調べたところ、2019年の休養市場の規模は約3.9兆円。2019年に休養のために最も多く支出されたのは、「食関連」で15,423億円、次いで「癒し関連」が9,972億円、「睡眠関連」が4,944億円、「住関連」が4,457億円、「遊ぶ・学ぶ関連」が3,115億円となっています。一方、「運動関連」は207億円、「衣類(スポーツ)関連」は867億円と、体をうごかして疲れをとる「積極的な休養」=アクティブレスト関連の支出はそこまで拡大しておらず、まだ投資意欲が十分に高まっていないことがわかります。
同協会では、今後、休養の重要性が社会に広く認識されていくにしたがって、休養関係の支出はますます多くなると見ており、特にアクティブレスト関連の支出が市場拡大を牽引し、2030年にはその市場規模は現在の約3.6倍の約14.1兆円にのぼるとの試算を示しています。
諸外国に比べ、休むことへの罪悪感を持つ人が多いと言われる日本ですが、今後、健康管理の一環として、あるいはビジネスマンの心得としての「休養」の価値が広く認識されるにしたがって、罪悪感なく休める人が増え、「休養」に紐づいた需要が拡大、思いがけないビジネスチャンスが生まれる可能性も大いに期待できるのではないでしょうか。