国内だけで宅配便取扱数が年間50億個超!増え続ける物流の課題にどう向き合う?
「1日でも早く」「即日配送も可」など、これまで、とかく配送の速さをアピールしてきたEC業界。購入者である私たちのほうもすっかりその「速さ」に慣れてしまい、「ネットで注文した商品が翌日自宅に届く」という、よく考えてみると実は奇跡のような状況を、いつしか当たり前のこととして捉えるようになっています。
しかし、ここにきてEC の配送を取り巻く状況に少々変化がみられるようになっています。その背景にあるのは、物流業界の疲弊です。ECの普及に伴って、日本の宅配便の取扱数は増加の一途をたどっており、今や年間50億個にのぼっています。この莫大な数の荷物の配送を担う物流業界では、深刻な人材不足が課題となっており、トラックドライバーなど物流の担い手の高齢化が進んでいることもあって、このまま取扱量が増え続けると「宅配クライシス」とも言われる危機的状況に陥るのではないかとの懸念の声も聞かれます。
「迅速な配送」が与える、環境への負荷も問題になっています。たとえば東京から北海道へ商品を配送するのに、トラックや貨物列車、貨物船で運べば2~3日かかるところを、1日で届けるために飛行機を利用すると、その分、二酸化炭素排出量が増えてしまいます。また、トラック輸送にしても、早く届けるために荷台が埋まらない状況でトラックを稼働させざるを得なくなり、1度に運べる荷物が減少。結果として稼働させるトラックの数が増えてしまうことも、環境への負荷増大に繋がっています。
こういった物流業界が抱える課題に、EC先進国のアメリカでは数年前から企業が「速さ最優先」を改める動きを取り始めています。深刻な人材不足が慢性化しているEC大手・Amazonでは、有料会員向けに商品の到着を5~6日後になる配送コースを選ぶと割引などの特典が受けられるサービスを開始。「特典が受けられるなら、少々届け日が遅くなってもかまわない」というユーザーからの一定の支持を獲得、選択肢の1つとしてすでに定着しつつあります。アマゾンと同様、「ゆっくり配送+値引きなどの特典」を配送の選択肢にできる小売業者やブランドも増加。今後は速さだけを売りにするECは、サステナブルな取り組みをしていないビジネスとみなされ、消費者からの支持を得られなくなる可能性すら指摘されています。
「ゆっくり」も選べる配送サービスが日本でもスタンダードに?
日本でも、速さ一辺倒の配送体制を見直す動きが目立ってきました。一石を投じたのは、フリマアプリ大手のメルカリです。2013年創業のメルカリは今や国内の月間利用者数が2000万人を突破、同社の発表によると日本の宅配便取扱数の1割、コンビニ発送の宅配便の約8割をメルカリが占めるほどにまで規模が拡大しています。これはつまり、メルカリのビジネスが成長すればするほど、日本の物流網には負荷がかかり続けるということでもあります。そこでメルカリは物流にかかる課題を解決するために、2021年10月に物流子会社「メルロジ」を設立。出品者が商品を購入者に送る際に利用できる自前の「メルカリポスト」を、2024年までに約8000か所に増やす計画を発表しました。また、アマゾンのゆっくり配送と似たサービス「ゆっくり宅配」(急がない配送方法+割引などの特典)の準備を進めていることが報道されています。すぐに手に入れたい食料品や日用品とは違い、衣類や趣味のアイテムなどの取扱いが多いメルカリの商品とゆっくり宅配の親和性は高く、今も売り手と買い手の間で「配送は特に急ぎません」というやり取りがよく見られることから、ゆっくり宅配は導入されれば、多くのメルカリユーザーに受け入れられるものとみられます。
配送を遅らせることができれば、1日に運ぶ荷物の量を平準化できるため、トラックなどの稼働の効率化が可能になり、環境への負荷も減らせる可能性が高くなるだけでなく、物流拠点やトラックドライバーへの負担軽減も期待されています。SDGs実現に向けた取り組みが企業価値を左右する時代、スピードだけを売りにせず、消費者に配送の選択肢を準備していくことが、今後ECはじめ多くの業界で広く求められるようになってくるものと考えられます。