そもそも「リテールメディア」とは?なぜ注目を集めるのか
Amazonやウォルマートがいち早く参入・大成功を収めたのを機に、アメリカで急激に市場を拡大しつつある「リテールメディア」。サードパーティクッキーが不要なことから、ポストクッキー時代の切り札としても注目を集めており、日本でも参入する小売業者が相次いでいます。日本においてもリテールメディアは定着するのでしょうか。リテールメディア市場に詳しいアタラ合同会社CEOの杉原剛氏をゲストにお迎えし、日本におけるリテールメディアの展望と課題について考察します。(1回目/全4回)
アタラ合同会社CEO、杉原 剛 氏 Criteo Sales Director、Japan 蓑輪 誠一、Criteo Head Of Retail Media、Japan 牧野 臨太郎
小売事業者に新たな収益を生む「リテールメディア」
蓑輪:「リテールメディア元年」と言われた2023年を経て、ようやく日本でもリテールメディアという言葉が浸透しつつありますが、人によってリテールメディアの理解にばらつきがあるような気がしています。
牧野:そうですね。様々なお客様と話す中で感じるのは、リテールメディアがバズワードの様に話される中で、関連サービスを提供する企業やリテールメディア関連の情報が急増し、断片的な話が多く、包括的な認識や定義がされていないと考えています。
杉原:リテールメディアはRetail(小売業者)とMedia(メディア)を組み合わせた造語ですが、実はその意味について世界共通の定義はまだなされていません。ただ、ここ数年、主にアメリカにおけるリテールメディアの動向を見て来た経験から私はリテールメディアを次のように定義しています。
リテールメディアとは?
小売業者が保有する顧客の属性情報や購買履歴情報を活用し、興味関心が高いと思われる広告を提供することで収益を上げる新規事業
蓑輪:確かに小売業者にとっては、自社のプラットフォーム(ECサイトなど)に他社・他ブランドの広告を掲載することで収益(広告収入)を上げられるようになるわけですから、まさに新規事業ですね。
Amazon、ウォルマートなど大手が続々参入する理由は?
牧野:リテールメディアが注目を集めるきっかけになったと言われるのは、Amazon広告の成功事例です。Amazonは2000年ごろからリテールメディア事業に参入していますが、アメリカの調査会社Insider intelligenceによると2022年の同社年間広告売上高は377億3900万ドル(約5兆円)で、前年から21.1%増を記録。個人情報保護強化などの影響で既存の広告プラットフォームの成長鈍化が指摘される中にあって、その好調ぶりが際立っています。
杉原:Amazonに追随する形でリテールメディア事業に参入した小売各社の成長ぶりにも、目を見張るものがあります。たとえば米小売り大手のウォルマートではリテールメディア事業「ウォルマートコネクト」による売り上げが、2021年は約21億ドル(3150億円)、2022年27億ドル(4050億円)と大きく伸ばしています。さらに注目すべきは、その利益率の高さです。現時点ではリテールメディア事業による売上は総売り上げの約0.44%に過ぎませんが、同事業による利益は総利益の5%を占めるまでになっています。ウォルマートのような大手スーパーが本業(小売)でどれだけ売り上げを上げているかを示す「売上高営業利益率」は一般的に約2~4%であるのに対し、リテールメディアでは、取り組み方にもよりますが、利益率70~90%を実現することも可能と言われています(BCG調べ)。
蓑輪:小売業者にとっては、人件費や在庫管理費、配送といったコストがかさむ本業に比べて、リテールメディアはかなり効率がよい事業ということになりますね。
杉原:そうです。利益率の低い本業を引き上げることができるリテールメディア事業は、小売業者にとってまさにカンフル剤的存在。非常に魅力的な領域で、いわば事業を拡大するための「カンフル剤」のような存在になりつつあります。
牧野:一方、広告主である企業やブランドにとっても、もともと購買意欲の高いユーザーが閲覧するECサイトに広告が出せるわけですから、非常に魅力的な広告手法ということになります。しかも、サードパーティクッキーを使わずに配信できるため、昨今のサードパーティークッキー利用の制限の影響を受けずに効果的な広告を配信しやすいというメリットもありますね。
杉原:加えて消費者にとっては、検索結果に対応した広告、つまり自分の興味関心のある商品やサービスの広告を、購買意欲の高まったタイミングで受け取りやすいというメリットもあります。つまり、リテールメディアは小売業者、広告主、消費者ともにメリットのある「三方よし」の広告手法と言えます。
リテールメディアのメリット
小売業者
- ブランド/メーカーが商品を売るための、より包括的なサービスを提供できる
- 利益率の高い収益で、本業の低い利益率をカバーできる
- 従来の広告ではできなかった、広告によって実店舗で購入に至ったのかがわかる
広告主(ブランド/メーカー)
- 高い広告効果
- 商品の販売促進を実施できる有効な手段を得ることができる
- 従来の広告ではできなかった、広告によって実店舗で購入に至ったのかがわかる
- データにもとづいた商品販促企画を立てることができる
- ブランド毀損しない広告を出すことができる
消費者
- 自分に関連性の高い情報を広告という形で得ることができる