2022年夏、AppleのAPPストアで、facebookやWhatsAPPなど並み居る人気アプリを抜いて、突如、ダウンロード数No.1に躍り出たSNSがあります。フランスの企業が2020年に立ち上げた、そのSNSの名は「BeReal」。直訳すると「リアルであれ」、つまり「ありのままの自分でいる」という意味が込められています。
BeRealは、以下の点で、これまでのSNSと大きく異なっています。
① 映えない
最大の特徴は、Instagramなど従来のSNSと違って、写真の加工ができないこと。BeRealにはフィルターが付いていないので、たとえば食べ物の色を濃くして美味しそうに見せたり、「美肌フィルター」で顔色を良くしたり・・・といったおなじみの「盛り」加工ができません。しょぼい食べ物はしょぼいまま、ノーメークで顔色最悪の顔は最悪のまま、つまり、ありのまま姿しか投稿できません。BeRealが、「まったく映えないSNS」と呼ばれるのは、このためです。実際、Instagramでよくみかける、目が不自然に大きな美女がお洒落なカフェで美味しそうなスイーツを・・・みたいな投稿は、BeRealでは、まったく見当たりません。
② 1日1回しか投稿できない
1日1回しか投稿できないのも、BeRealの特徴。しかも、アプリから投稿を促す通知が来たタイミングで、原則2分以内に撮影した写真をアップするのがルールです。これでは、お洒落に自分を装ったり、写真を加工したりしている余裕はありません。写真はスマートフォンの内側・外側両方のカメラで撮影されるため、カメラの前の光景だけでなく、自分自身の顔も撮影・投稿されます。実際、BeRealを見てみると、散らかった部屋、何気ない道端、スーパーの店内など、何の変哲もない風景の写真、寝起きの顔、笑顔ではないぼーっとした顔など、まずInstagramやfacebookでは見かけない、地味な写真が並んでいます。しかし、その地味で何の変哲もない風景や顔こそ、私たちが日常的に目にしている〝Real〟な風景であり、私たちの素の姿であることは、間違いありません。
なお、2分以内に投稿できなかった場合も、当日中であれば、投稿できますが、その場合は通知から何時間何分遅れの投稿であるかが表示され、友達にも知られてしまう仕組みになっています。
③ 友達にしか公開されない
さらに、投稿が友達にしか公開されない点もBeRealの特徴の1つです。「自分のありのままの日常を知られても問題ない」と判断した友達にしか公開されないので、名前も知らない「誰か」に誹謗中傷されたり、許可なくシェアされたりするおそれもありません。そのかわり、世界中の知らない人から「いいね!」をもらって人気者になることもできません。
④ 投稿すると前回の投稿は消えてしまう
FacebookやInstagramなど一般的なSNSは、過去に遡って投稿を確認できますが、BeRealでは、投稿する度に前回の投稿が消去されてしまうので、過去の投稿を確認することはできません。過去にどのくらい「いいね」をもらったのかもわからないため、BeRealはいわゆる「インフルエンサー」が生まれないSNSとも言われています。
BeReal人気の理由は、SNS疲れ?
盛れない、映えない、1日1回しか投稿できない。まさに、従来のSNSと真逆の路線を貫くBeRealが、今、なぜ若者たちに支持されているのでしょうか。
専門家は、BeReal人気の背景について、「若者たちは、『映え』を追求して時間やお金をかける意義を感じにくくなっている。SNSで万人受けを狙うより、仲間との盛り上がりを求めている」(トレンド評論家の牛窪恵氏)、「映える写真を撮ったり加工したりすることに疲れている」(メディア心理学研究所 所長 パメラ・ラトリッジ博士)と分析、「映え」や「SNS」への疲れ・飽き、そして若者たちの「リアルの友人関係を大切にしたい」という気持ちの高まりが、BeRealの急成長を加速しているものとみています。
BeRealのダウンロード数は、2022年10月現在、グローバルで5,300万超。最初に人気に火が付いたアメリカだけでなく、最近はブラジルでも人気が急拡大し、9月単月で1470万件と今年3月時点の約10倍に。このBeRealの快進撃を目の当たりにした大手SNS各社も、相次いて類似するサービスをリリースしています。メタはBeRealと同様に内側・外側両側のカメラで撮影できる機能をInstagramに追加。TikTokも2022年9月に「TikTokNow」というBeReal類似アプリを公開。通知が届いて3分以内に10秒の動画または写真を投稿するよう促す仕組みが採用されています。
BeRealが開いた新たなSNSの楽しみ方は、若者たちの行動をこれまでとは別の方向に変えていく可能性があります。特に「映えたい」⇒「映えなくていい」という意識の変化は、若者たちのお金の使い方を変えるはずです。「いいね」のために高価なパンケーキを注文したり(そして食べ残したり)、絶景の写真を投稿するために旅に出たりする若者は、もはや「主流」ではないのかも。ここ数年、「映え」を意識した商品開発やサービスに注力してきた企業や飲食店も、そろそろ新たな戦略を考えるべきときが、来ているのかもしれません。