日本人の睡眠時間は世界最短。注目の「スリープテック」とは?

睡眠時間「1日7時間以下」が60%超

2021年のシーズンで大活躍を見せたメジャーリーグ、ロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平選手。あるインタビューで、心身のコンディションを整える方法について聞かれると、「睡眠が僕にとって一番のリカバリー。毎日9時間は寝るようにしている」と回答しました。これを聞いて、「え!1日9時間も?」と思った方も多いのではないでしょうか。

というのも、今の日本で大谷選手と同じように9時間以上寝ている人は、全体のわずか5.1%。1日7時間以下の人が60%を占めています(厚生労働省 令和2年度健康実態調査)。

ヘルスケアデバイスを手掛けるフランスの企業Withings(ウィジングズ)の調査によると、日本人の平均睡眠時間は世界で最も短く、6時間22分。フランスの8.7時間やアメリカの7.5時間を大きく下回っており、世界で最も短いといわれています。

一部には短い睡眠でも問題なく過ごせる体質のショートスリーパーと呼ばれる人たちもいますが、多くの人にとって慢性的な睡眠不足は心身に大きな影響を与えます。睡眠は単に体の休息に必要なだけでなく、自律神経やホルモンバランスの調整、記憶の定着や免疫機能の調整、脳の老廃物の除去といった重要な役割を果たすこともわかっていて、睡眠不足が続くと、肥満や糖尿病、高血圧などの生活習慣病、さらには精神疾患、感染症やがん、認知症の発症リスクが高まってしまうのです。

近年、こうした睡眠不足によるリスクを防ぎたいというニーズの高まりを受け、ITやAIを駆使した様々な商品が登場し、「スリープテック」と呼ばれる一大市場が形成されつつあります。

世界中で参入が相次ぐスリープテック。市場規模3.5兆円越えの予測も

スリープテックとは「Sleep(睡眠)」と「Technology(技術)」を掛け合わせた言葉で、ITやAIなどの最新技術を使って睡眠の状態をモニタリング・分析・改善するための製品やサービスのことを指します。スリープテックに参入する企業は年々増加しており、アメリカの調査会社グローバル・マーケット・インサイトでは、スリープテック機器の世界市場は2026年に約320億ドル(約3兆5000億円)と2019年の3倍に拡大するとの予測を発表しています。

たとえば、家電大手のフィリップスも、睡眠領域におけるソリューション「SmartSleepシリーズ」を展開しています。スマホと連動させて寝入り・睡眠・起床をサポートする「ディープスリープ ヘッドハンド」や、子育てや夜勤などで不規則な時間や冬場まだ外が暗い時間に起床する場合にも、太陽光に照らされたような温かい光で自然と目が覚める心地よさを提供する「Smart Sleep ウェイクアップライト」などの商品を販売、好評を得ています。

SmartSleep ウェイクアップライト(出典:フィリップス プレスリリース

また、今年1月にアメリカ・ラスベガスで行われた世界最大規模の家電見本市・CESでも、スリープテック関連の出展が目立ちました。

日本からCESに参加したスタートアップ企業・株式会社ファーストアセント(東京都中央区)は、赤ちゃんの睡眠をサポートするデバイス「ainenne」(あいねんね)を出展しました。「ainenne」は、人間が朝日を浴びることによって体内時計がリセットされることをヒントに、赤ちゃんの起床就寝のリズム形成を助けることを目的として開発された製品。太陽光を模したLED光による目覚まし機能、ホワイトノイズ再生機能など、赤ちゃんの起床・就寝をサポートする機能が搭載されています。同社が独自開発した赤ちゃんの泣き声解析機能も搭載しており、赤ちゃんが泣いている時にボタンを押すだけで、泣き声を解析することが可能。また、同社が提供する育児記録アプリ「パパっと育児@赤ちゃん手帳」と連携、睡眠の「見える化」も実現します。

社員の睡眠改善に取り組む企業も

健康問題だけでなく、睡眠不足は企業経営にも少なからぬ影響を与えています。睡眠不足でパフォーマンスの低い社員が経営効率の低下を招いてしまうからです。

アメリカに本部を置くシンクタンク・ランド研究所では、日本は睡眠不足によるパフォーマンス低下などにより、社会全体で年間60万日を超える労働時間を損失しているとの試算を示しています。また、同研究所によると、睡眠不足による経済損失額を国内総生産(GDP)比で見た場合、日本は2.92%で、調査対象5か国のうちで最大に。損失額ではアメリカが最高で約4110億ドル(約47兆円)、日本はこれに次ぐ第2位で、損失額は1380億円に上っています。

こうした事情を背景に、社員の健康管理と経営効率改善の2つを同時に実現するための手段として、社員の睡眠改善に取り組む企業が増えています。

たとえば、ロート製薬では、社員の睡眠習慣改善を目指して、スリープテックベンチャー「株式会社ニューロスペース」が開発した睡眠改善プログラムを導入。専用の睡眠計測デバイスとスマートフォンアプリの活用、睡眠に関する研修やワークショップ等へ参加などを促しています。

また、DeNAでは、社員を対象とした調査で健康上の悩みとして「睡眠」を挙げる人が最も多かったことを受けて、睡眠に関するセミナーを実施、社内に仮眠スペースや運動スペースを設置するなどして、社員の睡眠改善を促しています。

個人だけでなく、企業ぐるみでの睡眠改善が進めば、スリープテック市場は今後ますます拡大していくものと思われます。3月18日は世界睡眠デー。この機会に皆さんも、改めて自分自身の睡眠を見直してみてはいかがでしょうか?