Amazonやウォルマートがいち早く参入・大成功を収めたのを機に、アメリカで急激に市場を拡大しつつある「リテールメディア」。サードパーティクッキーが不要なことから、ポストクッキー時代の切り札としても注目を集めており、日本でも参入する小売業者が相次いでいます。日本においてもリテールメディアは定着するのでしょうか。リテールメディア市場に詳しいアタラ合同会社CEOの杉原剛氏をゲストにお迎えし、日本におけるリテールメディアの展望と課題について考察します。(4回目/全4回)
Atara LLC CEO 杉原剛, Criteo Japan Sales Director 蓑輪誠一, Criteo Japan Head Of Retail Media 牧野臨太郎
アメリカの模倣ではなく、日本ならではのリテールメディア市場を育てよう
蓑輪:まだまだ課題は山積しているとはいえ、大きな可能性を秘めているリテールメディア。日本でも新規事業として参入を検討する企業は増えており、criteoにも複数のお問い合わせをいただいています。最近は小売業者だけでなく通信やITなど幅広い業界からの関心が高まっているように感じますね。
杉原:そうですね、海外でも非小売業の企業、例えばウーバーさんなどが成功を収めていますし、日本でも通信系企業、コード決済企業、レシピサイト運営企業など実に幅広い企業がリテールメディアに続々と参入しています。いずれの企業も自社の保有すするファーストパーティデータを活用し、自社サイトを広告プラットフォームとして提供しようとしているわけですが、やはり単なる属性データだけでなくトランザクションデータを保有している企業が強いですね。また、業種別にみるとドラッグストアやコンビニエンスストアは利用頻度が高く、「この人はこのジャンルの商品を、この時間帯によく購入している」みたいなデータが取りやすいですが、利用頻度の低い業界(不動産など)では、そういったデータがとりにくいので、結果としてクローズドロープ測定やパーソナライゼーションが難しい。さきほど牧野さんがご指摘されたとおり、リテールメディア事業には「すでに自社サイトで一定のトラフィックが確保できている」、「実店舗のデータも取れる」など一定の条件を満たしているかどうかをしっかり見極めてから参入することが望ましいでしょう。
牧野:その上で、リテールメディア事業で成功するには、どのような心構えが必要だと考えますか?
杉原:そうですね、一概には言えませんが、2023年11月にアメリカのミネアポリスで開催されたリテール・メディアサミットで議論されていた次の5つのポイントがとても参考になると思うので、紹介したいと思います。
- テストして学ぶ
新しい概念であるリテールメディアには、まだ「正解」はない。貪欲に試行錯誤しながら、学び続けることが大切。
- ブランドは、パートナーをチームの一員として扱う。透明性とコミュニケーションが重要
「広告予算を外部ベンダーに預ける」といった感覚では、うまくいきません。パートナーを組織の一員として捉え、全てにおいて透明性をもったコミュニケーションを取ることが大切。
- ショッパーを中心に据え、伝えたいメッセージが何かを考える
ショッパー体験がどうあるべきか、どのようなメッセージをどのようにして伝えたいかを、常にショッパーの視点に立ち戻って真剣に考えること。
- サイロを作らない。オムニチャネルで取り組む
リテールメディア単体でキャンペーンを考えない。オムニチャネル、統合マーケティングの中で考えて実施する(参加企業の一つ、General Millsは「オンライン/オフライン」という切り分けは控え、ウェブ上の取り組みを切り分けて言及しないとならない場面では「コネクテッド(な体験)」と語っていた)。
- 正しいエキスペリエンスの次に、マネタイゼーションがくる
リテールメディアのマネタイズには一定の時間を要するので、たくさん広告予算を投下し、広告を配信するという意識になりがちだが、それはエキスペリエンスを毀損することにもつながる。逆の発想で、あるべきエキスペリエンスを常に考えること。
セッションを聞いてわかったのは、すでにある程度リテールメディアの取り組みが進んでいるアメリカですら、まだ実験的な取り組みが多いこと。だからこそ、すべてをインハウスで行うことは難しく、各プロセスで信頼できるパートナーを選び、共同で試行錯誤しながら事業を進めていくことが重要だと思いました。
業種・業界を超えた連携を進めよう
牧野:示唆に富んだリポートをありがとうございます。まさに、納得の内容ですね。先行地域であるアメリカの動きをウオッチしてマネできるところはマネしつつも、日本は日本で、日本人に適したリテールメディアの在り方を探るべきフェースに来ています。小売業者、広告主、そして私たちのようなベンダーなど、リテールメディアに関わる各プレイヤーがしっかり連携して、日本ならではのリテールメディア市場を作り上げていかねばなりません。こういった話を先日のアドテク東京でお話しましたら、金融機関など普段あまり接点のない業界の方から「話をきかせてほしい」とお声がけいただくなど、ちょっとこれまでにない化学反応のようなものが起きていて、驚きつつも、ワクワクしているところです。
杉原:黎明期ならではの大変さもある反面、楽しさもありますよね。とにかく企業の皆さんにはぜひTry&Errorに果敢に挑戦していただきたい。もちろん失敗はしないに越したことはありませんが、失敗を恐れて挑戦しないこと自体が、結果として「失敗」になってしまうことだってありますから、まずは挑戦することに価値があると思います。挑戦にあたって頼りになるのが、外部の技術パートナーの存在です。特にcriteoさんはこれまで培ってきたデータ収集・利用のノウハウやAI技術もありますし、すでにグローバルでのリテールメディア・ソリューションでの実績もありますから、ぜひ日本におけるリテールメディアの発展をベンダーの立場からけん引していっていただきたいと期待しています。
蓑輪:ありがとうございます。今、杉原さんにおっしゃっていただいたとおり、criteoは海外ではすでに多くの企業のリテールメディア事業をサポートして実績をあげていますし、日本でも2023年から本格的にこの領域への進出を果たしており、確かな手ごたえを感じているところです。引き続き私たちの強みである豊富なデータと強力なエンジン、そして最先端のAI技術を駆使して、リテールメディアの発展のために尽力してまいります。Criteoのリテールメディア・ソリューションにご興味のある方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。