コロナ禍が収束して外食や旅行の需要が急回復した一方、記録的な猛暑や世界情勢の悪化の影響で、食関連の値上げラッシュが家計を直撃した2023年。皆さんは、どこでどんな食を楽しみましたか?美味しいものを食べる機会が増えるホリデーシーズンを前に、今年の食トレンドを振り返ってみましょう。
1.キーワードは「#アルモンデ」。節約から「節楽」へ
2023年の食のトレンドを語る上で欠かせないのが、食材の値上げラッシュです。原料価格の高騰に加え、石油高に端を発した加工費・輸送費の高騰もあり、調味料や加工食品だけでなく、野菜や果物、玉子や精肉といった日常生活に欠かせない生鮮食品も相次いで値上げし、家計を圧迫しました。食だけなくガソリンや電気代・ガス代も上昇が続く中、家計の見直しを余儀なくされた人も少なくないでしょう。
家計を見直すにあたって、真っ先に対象となるのが「食費」です。帝国データバンクの調査では、2023年4月~9月までの期間中、1世帯あたり月に3,700円を節約したという結果も出ており、多くの人が生活費を浮かせるために食費の節約に励んでいることがわかります。
しかし、その一方で見逃せないのが「がまんしたくない」という傾向もみられること。電通の調査によると、普段の家での食事において、値上げしてもこれまでと同等以上のお金をかけたい人は全体で47.5%(記念日や特別な日の食事においては70.3%)に。普段の日の外食においては48%(記念日や特別な日の食事においては69.1%)に上っていることがわかりました。さらに、食生活の実態として、「値上げがあっても食べたいものは我慢しない」という意向を持つ回答は全体で47.4%もみられました。電通では「生活者は食への節約意識はあるものの、我慢したくないという意向が傾向として強く出ている」と分析しています。
一方、節約に励む人たちの意識にも変化が見られています。節約というと従来は苦しい・辛いイメージがありますが、最近は節約そのものをコンテンツとして楽しんでしまおうという傾向が。SNSでは節約料理のレシピや動画が溢れ、「夫婦で食費●万円生活」などと節約生活を楽しむ様子を配信する人への共感が集まっています。Twitterでも「#アルモンデ」(=家にあるもので作る)というハッシュタグをつけた料理がトレンド入りになるなど、家にある食材でなんとか工夫しながら、シンプルに食を楽しもうという人が多くみられました。電通ではこの意識の変化を「節約から節楽へ」と表現。「華美で非日常を味わうぜいたくもすてきではありますが、自分の本当に求める生き方に焦点を当てながら、無理せず最大限に楽しさを追い求める工夫、節楽は今後の日本の食生活の実態を明るく捉えるものの見方になっていくのではないか」と分析しています。
2.今や世界で大人気!究極のモバイルフード「おにぎり」
コロナ禍を経て全国的なブームとなっているのが、おにぎり。2023年は全国でおにぎり専門店の開店ラッシュが続いています。総務省の家計調査によると、2人以上の世帯が去年1年間(2022年)コメにかけた金額は平均1万9000円ほどで、20年前(2002年)と比べ5割近く減っています。一方、おにぎりや赤飯などを含む「おにぎり・その他」をみると、平均で5,172円と2000年以降、最も高くなっています。「コメ離れ」は進んでいるのに、おにぎりの人気は高まっているのです!あの食の専門誌「dancyu」が2023年11月号でおにぎり特集を組んだことからも、その人気ぶりが伺えます。
専門店のおにぎりの魅力は、なんといっても、自宅で作るおにぎりとはまた別の「ごちそう感」が味わえること。米や具材、海苔や塩にまでこだわったおにぎりは「ストーリー性」が高く、SNS映えすることもあって、自宅ではあまり米を食べない若者たちからも支持されています。
また、小麦価格の上昇でパンやサンドイッチなどの小麦粉製品の値上げが相次ぐ中、お米は価格が安定している・国内産のものが容易に手に入る点も専門店の増加を後押ししているようです。また、健康志向の高い人の間で広く支持されている「グルテンフリー」な食生活にも、お米はぴったりの食材。別名「究極のモバイルフード」と呼ばれる通り、軽い包装でどこにでも持ち運んで、好きなタイミングで箸やカトラリーを使わず、手も汚さずに食べられるエコさもおにぎりの魅力の一つ。
体にも地球環境にも優しいメニューとして、今後ますますその存在感を増していきそうです。
3.高まるヘルシー志向。キーワードは高たんぱく&グルテンフリー
コロナ禍で高まった健康意識は、すっかり日本人の食生活に定着しつつあります。特に、リモートワークによるいわゆる「在宅太り」を経験した人たちの中には、猛省して熱心にダイエットや健康管理に取り組み、「コロナ前よりヘルシーになった」という人も。そんな人たちの中でブームを呼んだのが、「16時間ダイエット」。1日のうち16時間は絶食(水やノンカロリーの飲み物はOK)し、残りの8時間は基本的に好きなものが食べられるというダイエット法。16時間何も食べないことでオートファジー(細胞の新陳代謝)が起きやすくなり、太りにくくなると言われています。
一方、筋トレに励む人たちに強く支持されているのが、タンパク質の摂取。たんぱく質を十分に摂取すると筋肉量が増えて基礎代謝が上がるので、筋トレの効果がUPするだけでなく、脂肪燃焼・ダイエット効果も期待できると言われています。たんぱく質は肉や卵、魚に多く含まれていますが、毎食となると調理が大変。そこでプロテイン入りのチョコレートバーやドリンク、ヨーグルトなどが続々登場、最近ではコンビニエンスストアの定番アイテムになりつつあります。実際、インテージが行った調査によると、プロテイン市場の市場規模は右肩上がり。2017年を100とすると、即食タイプのプロテイン系飲料やバータイプ食品が各社から発売された2019年には157に急拡大し、2022年には272に達しています。
(出典) インテージ プレスリリース
そして、グルテンフリーも健康意識の高い人が数多く取り入れている健康法。グルテンフリーは小麦に含まれるグルテンを食べないことで心身の健康や肌のコンディションを良く保とうとする食事療法のこと。プロテニスのジョコビッチ選手が実践していることで大きく注目を集めました。最近では日本でも挑戦する人が増えており、小麦粉を使わない米粉やそば粉のパンやパスタ、こんにゃくや豆の麺など、小麦の代替食品が多く出そろい、レストランでもグルテンフリーのものを選べるようになっています。ダイエット目的だけでなく、体調やコンディションをベストな状態に整えるために、主食を選ぶ人が、今後ますます増えいきそうですね。
4.お正月のおせちは、「奮発型」と「特化型」の二極化が進む
このように健康意識の高まりと物価高の影響で、ヘルシーかつシンプルな食生活がすっかり定着した感のある2023年ですが、「年末年始のホリデーシーズンくらいは、普段よりもちょっと自分を甘やかして美味しいものを食べたい!」と思っている人も多いのでは?特に2024年は新型コロナウイルス感染症の「5類感染症」移行後、初めて迎える新しい年。実に4年ぶりに、気兼ねなく家族や親せきなどと集まれることから、大人数で食べられる大容量のおせちや、豪華な食材を使ったもの、品目数の多いものなど奮発しておせちを購入する人が増えると予測されています。実際、EC大手・楽天が30代~60代男女1355人を対象に実施した「今年の年末年始の過ごし方」に関するアンケート調査では、回答者の約9割(91%)が、「正月は自宅や帰省先、親族の家などでお正月を過ごす」と回答し、約5割(53%)が「3-4人用」、約2割(17%)が「5人以上用」のおせちを購入予定と回答しています。
好まれるおせちの傾向は、みんなで集まるハレの日を豪華に楽しみたいという「奮発型」と、肉やスイーツ、フルーツなど特定の食品(好物)に特化した「特化型」への2極化が顕著に。伝統的なおせち料理よりも、「新年くらい自分の好きなものを好きなだけ食べたい」という、自分へのご褒美として特化型のおせちを選ぶ人が増えているようです。
さらに、近年のおせちトレンドで外せないのが、その名も「お試しおせち」です。おせちは数万円もする高い買い物で、しかも1年最初のおめでたいハレの日に食べるものだけに、失敗は避けたいもの。そこで楽天では「味見用」として少数・低価格で購入できる「お試しおせち」の発売を開始、2022年には2020年比で4倍近い注文が殺到したとのこと。楽天では「今年は購入するおせちの容量や購入金額や上がることが予測されていることから、このような比較検討ニーズがより顕著になり、レビューが充実した商品や『お試しおせち』に人気が集まる」と分析・予測しています。食品の値上げラッシュでおせちやクリスマスケーキなどハレの日の食の高額化が進む中、「多少高価でも美味しいものを食べたい。でも失敗したくない」という消費者心理を掴むためのアプローチとして「比較検討ニーズ」に応える取り組みが、食の分野においてもますます有効になって来るのは間違いないでしょう。
2024年がどんな年になるのかは神のみぞ知るですが、世界が平穏を取り戻し、皆様が美味しい時間を自分らしく楽しめますように!