クッキー規制や個人情報保護強化の流れを受けて、にわかに注目を集めている「リテールメディア」。海外ではAmazonやWalmartといった大手小売事業者が相次いで参入し、市場は急拡大を続けています。これまで少し出遅れ感のあった日本でも、2022年に入って、ようやく大手小売事業者を中心にリテールメディア参入の動きが見られるようになっています。
本コラムでは、早くからグローバル市場でリテールメディア事業をリードしてきたCriteoの日本におけるリテールメディア戦略について、事業開発部長である神武 秀一郎が詳しく解説いたします。
そもそも「リテールメディア」とは?
―最近、よく耳にするようになった「リテールメディア」ですが、どんな広告手法なのでしょうか?
神武:簡単に言うと、自社のECサイト上に広告枠を設け、それをブランドや他の企業に販売する手法のことです。
日本だとリテールメディアというとデジタルサイネージのようなものを想像されることが多いのですが、海外含め席巻している本質的なリテールメディアというのはあくまでオンライン上の広告手法です。
実店舗で買い物をしているときに、店頭で「限定品」とか「店長のイチオシ!」といったポップやポスターを見かけて興味を惹かれることがありますが、リテールメディア広告には、まさにあのポップやポスターと同じような効果があると考えていただければ、わかりやすいと思います。
たとえば、Aさんが大手量販店のECサイトで冷蔵庫を閲覧していたとしましょう。そこにAさんに某ブランドの冷蔵庫のリテールメディア広告が配信されます。Aさんがその冷蔵庫に興味を持って広告をクリックすると商品紹介のページが表示され、AさんはECサイトを離脱することなく、そのECサイトの決済システムを使って商品を購入することができます。ブランドの外部ページに行って購入すると、また決済方法を選んだり個人情報を入力したり・・・という作業が必要になってしまいますが、リテールメディア広告を介して購入すれば、そういった面倒な手続きから解放され、よりスムーズにショッピングを楽しむことができるメリットもあります。
―リテールメディア広告が注目を浴びるようになったきっかけは何ですか?
神武:2010年代後半にAmazonが採用して大成功を収めたことにより、世界的に知られるようになりました。抜群のサイトトラフィックを誇り、しかも消費者との距離が非常に近いAmazonのECサイトに自社広告を出せるメリットは非常に大きく、広告枠はあっという間に売れてしまいます。結果として、Amazonはリテールメディア事業に参入により、本業の小売業に並ぶ大きな収益源を創り出すことに成功したわけです。これを見て、欧米の大手小売事業者 が相次いで参入し、みるみるうちにリテールメディア市場が拡大していきました
コロナ禍によるEC市場の急拡大が、リテールメディア普及を加速
―上のグラフを見ると、リテールメディアは2020年以降の成長が特に著しいですね?
神武:はい。背景にあるのは、コロナ禍による世界的なEC市場の急拡大です。日本国内だけを見ても、コロナ禍に伴う巣ごもり消費の拡大で、2021年の日本の物販系EC市場(BtoC)は前年比+1.2兆円も拡大しており、今後も拡大傾向は続くと見られています。こうしたECの利用者の急増を背景に広告配信の場としてのECサイトの価値も急上昇していて、電通の調査によると、物販系ECサイトプラットフォームの2021年の広告費は1631億円と、2019年(1064億円)に比べて約53%も伸びています。
―リテールメディア広告が増えると、小売事業者には「広告収入が得られる」というメリットがありますが、広告主や私たち消費者には、どんなメリットがあるのですか?
神武:リテールメディアは、小売事業者だけが得をするのではなく、小売事業者、広告主であるブランドや企業、広告を受け取る消費者の3者それぞれにメリットがあり、win-win-winの関係が築きやすい広告手法です。
まず、先ほど御指摘のあったとおり、小売事業者には物販以外に利益率の高い広告収入を得られるというメリットがあります。
また、広告出稿を通じてブランドやメーカーとの関係を深めることができるのも、小売事業者にとってのメリットの1つでしょう。
一方、ブランドのメリットには購買意欲の高いお客様にECサイト上で直接リーチして直接売り上げに結び付けることができるというメリットがあります。また、小売事業者の保有する顧客データにアクセスできるのも、ブランドにとって大きなメリットだと言えるでしょう。
また、消費者の皆さんにとってのメリットは、何と言っても、より快適なショッピング体験ができること。リテールメディアでは関連性の高い広告しか配信されないため、関連性のない不快な広告にショッピングの邪魔をされることがありません。関連性の高い広告を受け取って、潜在的なニーズに気付かされたり、より魅力的な商品に出会ったりといった、有意義な体験をすることができます。
小売事業者のメリット
- 広告収入を得ることができる
- ブランドやメーカーと深い関係性を築くことができる
ブランドのメリット
- 買い物意欲の高い消費者にリーチしやすい
- 広告が売上につながりやすい
- 小売事業者独自のデータやインベントリにアクセスできる
消費者のメリット
- パーソナライズされた関連性の高い広告を通じて魅力的な商品と出会うことができる
- より充実したショッピング体験を楽しむことができる
- 買い物の邪魔にならない役に立つ広告を見ることができる
さらに、リテールメディアはサードパーティ・データではなく、ファーストパーティ・データを使って広告配信を行うため、個人情報保護強化に対応できる広告手法でもあります。
Criteoでは、早い時期からリテールメディアの可能性の大きさに着目し、グローバル市場においてはすでにリテールメディアで大きな実績を上げているリーディングカンパニーです。次回は、Criteoが展開しているリテールメディア事業の概要について解説します。