日本のアナログレコード、生産量・金額ともに記録的な伸び
CDは買わず、音楽はもっぱら配信やアプリで楽しむ・・・・・・、そんなZ世代の音楽事情に興味深い変化が起きています。アメリカを中心に世界的に広がりつつあるアナログレコードブームです。アメリカでは2022年のレコードの売上高が10億ドル(1,300億円)を超え、新作のレコード盤を出す歌手が続出、人気歌手テーラー・スウィフトの新作が3カ月で100万枚も売れたことが話題を集めました。中古レコードの人気も高く、数が少ない物は数十万円で取引されることも珍しくありません。
海外での盛り上がりを受け、日本でもレコード市場が活況です。日本レコート協会によると日本国内でのアナログレコード生産枚数は2014年以降増加傾向にあり、2022年の生産数は1999年以来の数量200万枚超えの213万3,000枚、金額としては1989年以来の40億円超えで43億3,600万円を記録しました。
ターンテーブルを持っていないのに、レコードを買う理由は?
ブームをけん引しているのは、スマートフォンで音楽を聴くのが当たり前…と思われていたZ世代の若者たち。シェアリングエコノミーを好み、モノを持ちたがらない世代として定義されることの多い彼らは、なぜレコードを購入しているのでしょうか。IFPI(国際レコード・ビデオ製作者連盟)が行った調査で「なぜ、レコードを買うのか」を尋ねたところ、「音楽を物理的に所有したい」が最も多く49%、「レコードを眺めていたい」が41%、「レコードを再生する『儀式』が好き」36%「アルバムに没頭したい」28%、「お気に入りのアーティストを応援したい」26%、「ライナーノーツを読むのが好き」26%と続きました。
これらの回答から、レコードで音楽を聴くため・・・というよりもむしろ、レコードという形のあるものを「再生する」体験と、その体験によってもたらさせる豊かな時間、そして満足感を得るためにレコードを買う若者たちが多いことが見てとれます。同時に、「聴けなくても、レコードが欲しい」という人たちも。2022年にレコードを買った人のうち半数は、レコードを再生するターンテーブルを持っていないという調査結果もあります。聴けないのにレコードを買う理由としては、上記の調査での回答にもあるように「お気に入りのアーティストを応援するため」「ライナーノートを読みたい」「レコードを眺めていたい」などが考えられます。すでに配信サービスで何度も聞いたことのあるため、音楽そのものは聞けなくても、レコードという形として所有していたい・・・という若者たちの所有欲が、レコードの復権を支えているようです。
書店もリアル回帰へ
レコードブームに続き、アメリカではもう一つ、オンライン→オフラインへの興味深い動きが見られます。それは、リアル書店の復活です。これまでオンライン書店やkindleに押され気味だったリアル書店。アメリカでも2011年には、当時全米2位の規模を誇っていた大手書店チェーンが廃業に追い込まれるなど、書店の閉店が相次いでいました。しかし、新型コロナの感染拡大による外出自粛により、状況が一変。自宅時間が増えたことで、読書がブームになり、書店に足を運んで紙の本を選び、購入することに楽しみを見出す人が増えたと指摘されています。ニューヨークでは品ぞろえや内装にこだわった独立系の書店の開店が相次ぎ、週末になると書店巡りを楽しむ若者たちも増えているといいます。こういった流れを受けて、アメリカ最大の書店チェーン「バーンズ&ノーブル(B&N)」は、2023年中に約30店を新たに出店する予定であることを発表しています。
音楽も本も、オンラインならすぐに読んだり聞いたりできる時代だからこそ、逆に「モノ」(=レコードや本)を通じて得られる体験を楽しみたい、自分のものとして「所有したい」と思う消費者心理が、新しい買い物のスタイルを生み出しつつあるようです。