ECにも影響大!物流の2024年問題とは

今や日常生活に欠かせない買い物のスタイルとなったオンラインショッピング。買い物するオンラインショップを選ぶ際の大きなポイントとなるのが、配送サービスの質です。特に送料の安さを重視する人は多く。日本のマーケティング支援会社ネオマーケティングが行ったアンケート調査でも、「ECショップを選ぶ際に重要だと思う要素」として「送料の安さ」が「重要」と回答した人が62.2%。「やや重要」と回答を含めると、その割合は約89%に上り、送料の価格設定がオンラインショッピングでの店・ブランド選びに大きな影響を与えることが見て取れます。また、配送の「速さ」を求める人も多く、『Digital Commerce 360』とBizrate Insightsが行った調査では、調査対象者の60%以上が、「2つのECサイトで価格が同じ場合、配送が速い方を選ぶ」と回答しています。

この「もっと安く、もっと速く」が実現しているのは、日本が世界に誇る優れた物流システムのおかげ。特に昼夜を問わず走り続けるトラック輸送の果たす役割は大きく、距離の長短や運ぶ商品の内容を問わず、トラック輸送なしには日本の物流は成り立ちません。しかし、このトラック輸送が今、大きな危機を迎えつつあります。いわゆる、「物流の2024年問題」と言われる深刻な問題が、間近に迫ってきているのです。

もともとトラックドライバーの労働環境は、長時間労働の慢性化という課題を抱えていました。このため、3K(きつい、きたない、危険)な仕事として若者から敬遠されやすく、労働者の高齢化や労働力の不足が加速。一方で、EC市場の急拡大による宅配便の取扱い数が急増、ドライバーの労働時間がさらに長くなるという悪循環に陥っています。このまま若者のドライバー離れが進むと、近い将来、深刻なドライバー不足が進み、現在のような物流システムが維持できなくなるおそれがあります。

そこで政府では、「働き方改革関連法」によって2024年4月1日から、自動車運転業務(トラックドライバー)の年間時間外労働時間を960時間に制限することで、ドライバーの労働環境を改善することを決定したのです。「労働時間に制限が設けられることでドライバーの労働環境がホワイトになるのなら、良い話では・・・?」と思ってしまいがちですが、問題はそう単純ではありません。この法律はドライバーのみならず、物流業界全体に大きな打撃を与えてしまい、結果として消費者が求める「送料無料・迅速配達」のニーズが満たされなくなるおそれも孕んでいるのです。ドライバーの時間外労働時間制限により起こる問題=物流の2024年問題として指摘されているのは、次のような問題です。

① 運送・物流業者の利益減少⇒運送料を値上げせざるを得ない

ドライバーの時間外労働時間が制限されることによって、1日に運べる荷物の量が減り、その分、運送・物流業者の利益が減ってしまいます。減った利益をカバーするには、1個当たりの運送料を上げざるを得ません。しかし、消費者の「より安く、より早く」のニーズを満たしたい荷主は、より安い配送業者を選ぶため、安易な値上げは難しいのが現実。運送・物流業者間の過当競争が起き、競争に勝てない業者は破綻に追い込まれるのではないかと危惧されています。

② ドライバーの収入減少⇒さらなる人手不足へ

時間外労働時間が減ることにより、ドライバーがこれまで得ていた時間外手当が減り、当然ながらドライバーの収入が減ってしまいます。このため、より良い収入を得るためにトラックドライバーから他の職業に転職する人も増えると見られており、さらなるドライバー不足に陥るのではないかと懸念されています。

こうした課題に立ち向かうべく、物流業界では積み荷の上げ下ろしの自動化や他の運送手段(船や鉄道)への切り替えなどの対策を講じ、ドライバーへの負荷を軽くしつつ労働時間の短縮を図ろうとしています。しかし、原油価格の高騰が長期化していることもあり、運送料金の値上げは避けられないだろうとの見方が有力。今後はECサイトで消費者に「安さ・速さ」だけでない配送オプションを用意するなど、荷主である小売業者サイドの努力も求められるようになるでしょう。

すでにメルカリやAmazon、Yahoo!ショッピングでは、「急がない便」を選ぶとポイント還元や各種特典が受けられるサービスを展開しています。SDGsの観点からも、持続可能な物流への取り組みはブランド価値の向上にもつながる、重要な経営課題の一つになっていくことは間違いなさそうです。