コンテクスチュアル・ターゲティングの登場から、早くも20年近く経ちました。この手法は2000年代初頭に注目を集めるようなり、代表的なものとしてGoogle AdSenseが知られていますが、ビッグデータや行動ターゲティングの魅力や信頼性がもてはやされる中、コンテクスチュアル・ターゲティングは長年、地味な存在に甘んじてきました。
しかし、この状況が今、まさに変わろうとしています。
以下で詳しく説明しますが、コンテクスチュアル・ターゲティングは、Cookie廃止後、デジタル広告ソリューションの1つとして重要な役割を果たすことになります。その前に、まずその定義についておさらいしておきましょう。
コンテクスチュアル・ターゲティングとは?
コンテクスチュアル・ターゲティングとは、ウェブページのコンテンツに広告をマッチングさせる手法です。ここでフォーカスするのは消費されるコンテンツであり、コンテンツの消費者ではありません。言い換えれば、コンテクスチュアル・ターゲティングは印刷広告のハイテク版であり、いわばランニング関連の雑誌でスニーカーを宣伝するための広告枠を買うようなものです。
従来のコンテクスチュアル・ターゲティングでは、ターゲットにしたいキーワードをページ内のキーワードにマッチングさせていました。ここでは、カテゴリーレベルで機能させることもできます。たとえば、御社が自転車のブランドなら、「バイク」「バイクレビュー」「バイクのメンテナンス方法」「自転車旅行」などの特集ページで広告を掲載したいと考えるはずです。カテゴリーによるアプローチでは、スポーツやアウトドアに分類されるコンテンツの中で広告を表示してもよいでしょう。御社がメガネを販売しているなら、以下の例のように書籍関連のページに広告を掲載させることもできます。
理屈としては、この手法を使えば、御社の商品と関連性が高いコンテンツを見たり聞いたりしているユーザー、つまり御社の商品に興味を持つ可能性が高いユーザーにリーチできるということです。また、コンテンツとの関連性が高いため、広告が違和感なく受け入れられやすいというメリットもあります。
コンテクスチュアル・ターゲティングが重視される理由
さまざまな要因が追い風となって、コンテクスチュアル マーケティングは、今まさに大きな転換期を迎えています。
1.ブランドセーフティと適合性の懸念を解消。
プログラマティック広告の急速な発展・成長による弊害に苦い思いをしてきた経験から、ブランドは広告を配信する場所に非常に敏感になっています。フェイクニュースやヘイトスピーチの蔓延に加え、新型コロナウイルスの感染拡大もあり、回避すべき危険がさらに増えたと感じているかもしれません。
こうした問題を解決するのがコンテクスチュアルターゲティングであり、ブランドが提供する商品と関連性の高いコンテンツに絞って広告を配信することができます。さらに現在ではテクノロジーが発展して、コンテンツ中のキーワードだけでなく微妙なニュアンスやセンチメントまで理解した上で、関連性や安全性を見極められるようになっています。つまり、コンテクスチュアル・ターゲティングの手法を使えば、より多くの広告インベントリを安心して利用できるようになるということです。
ここではヴィーガン向けのレシピ本を販売している出版社を例に見ていきましょう。基本的なキーワードマッチングの観点からすると、この記事は正しい配信先、つまりヴィーガン食に関する記事であるように見えます。しかし、全体的なセンチメントを捉えた場合、実際は菜食主義に対して否定的であることがわかります。現在はAIがこれを認識できるようになっているため、これらのページはレシピ本の広告配信先の候補リストから除外されます。
2.サードパーティCookieに依存しない。
GDPR、CCPA、IDFA。ご存じの通り、これらはデジタル広告の業界に大きな変化もたらす消費者のプライバシー保護に関する頭文字です。Appleによる広告用識別子のIDFAの廃止、それに伴うSafariブラウザでのサードパーティCookieのブロックに加え、GoogleもサードパーティCookieを2022年までに段階的に廃止することを表明しています。つまり近い将来、キャンペーンの活性化にサードパーティのデータを使用している広告主は、別のオプションを探さなければならないということです。
そのオプションの1つが、コンテクスチュアル・ターゲティングです。コンテクスチュアル・ターゲティングは特定のユーザーをターゲティングするわけではないので、サードパーティCookieに依存することがなく、またすでに実証済みの手法でもあることを踏まえても、現時点では有効なオプションと言えます。一方、Cookieに代わるその他の広告ソリューションはまだ開発段階のため、整備にしばらく時間がかかることが予想されます。
3.今もなお、優れた顧客体験を提供。
長きにわたって、広告主にとっての最大の目標は1対1のパーソナライゼーションの実現でした。サードパーティデータを失うことはパーソナライゼーションを失うことを意味し、関連性に欠けた効果の低い広告になってしまうことを懸念する声もあります。
しかし、この分野のプロバイダーは、コンテクスチュアル・ターゲティングは行動ターゲティングよりも高いパフォーマンスを発揮するはずだと報告しています。あるプロバイダーによると、消費者の69%はコンテキストに沿った広告にエンゲージする可能性が高いことがグローバル調査で明らかになったと述べています。
さらに、先見の明のある広告主は、コンテンツに対するオーディエンスの関心を把握し、コンテクスチュアル・ターゲティングをさらに進化させるべく、ファーストパーティデータを活用し始めています。
4.従来よりもスマートな手法。
これまで関連性の高いコンテンツの識別には単純なキーワードマッチングが利用されてきましたが、他のアドテクノロジーと同様に、コンテクスチュアル・ターゲティングもAIの進歩によって精度が飛躍的に向上しています。
現在は自然言語処理(NLP)により、ページ全体のコンテキスト(文脈)やセンチメント(感情)を、より深く理解できるようになっています。たとえば、以前は「このページではイタリア旅行について書かれている」ことしか判断できませんでしたが、今では「このページではイタリア旅行での残念な体験について書かれている」ことまで、判断できるようになっています。機械学習によってAIは最も関連性の高いコンテンツを識別できるようになるため、広告主はキーワードやホワイトリストに頼る必要がなくなります。
テキスト解析に加え、画像や動画をスキャンするマシンビジョンで意味を理解したり、音声解析で意味を読み取ることも可能です。このようにしてページに関する総合的な理解が深まり、広告主は動画内広告やオーバーザトップ(OTT)、コネクテッドTV(CTV)といった他のインベントリを選択できるようになります。
コンテクスチュアル・ターゲティングからコンテクスチュアル インテリジェンスへ
マーケターが他の戦略に注目している間に、コンテクスチュアル・ターゲティングは高度なテクノロジーを駆使した強力なツールへと秘かに変貌を遂げていたのです。AIを搭載したこの機能は、安全かつ関連性のある広告枠を識別できることから、「コンテクスチュアル インテリジェンス」と呼ばれています。マーケターが従来とは違うデジタル広告環境で戦略を策定していくにあたって、このインテリジェンスは新たな方法で消費者とつながるためのカギとなるでしょう。