顧客のこだわりを吸い上げる「スモールマス市場」とは?

更新日 2021年01月13日

減り続ける量産品のシェア~ヘアケア市場では5割以下に

大量生産・大量販売・大量プロモーションを前提に、すべての消費者を対象に同じマーケティングを行う・・・、そんなマス・マーケティングの常識が一部の業界で転換期を迎えつつあるようです。

特に顕著なのがシャンプーや化粧品などを扱う美容業界。もともと、この業界では大規模な工場を抱える大手企業が安定した品質の商品を大量生産し、テレビコマーシャルのような大規模で画一的なプロモーションを展開して販売するというモデルが主流であり、消費者は与えられた狭い選択肢の中から商品を選ぶしかありませんでした。ところが、ここ数年、その構図に大きな変化が起きているのです。大手日用品メーカー・花王の調査によると、ヘアケア市場における「800円未満」のマス向け商品の比率は2010年の77%だったのに対し、2018年には50%に急激に縮小しました。逆にシェアを伸ばしているのは、より高額な商品群。800円~1400円の価格帯は11%から28%に、1400円以上は9%から19%に比率を伸ばしました。値段が多少高くても、より自分らしい商品を好み、購入する消費者が増えているのです。花王では、こういった消費者が主導する市場を「スモールマス市場(マスではないが、商品やブランドに共鳴するファンを持ち、一定規模の需要が見込める市場)」と呼び、2015年頃からマーケティングに活かし始めているといいます。

牽引役は新興企業、武器はSNS

スモールマス市場の牽引役は新興企業、そしてその成長を可能にしたのが顧客ニーズを吸い上げるデジタル技術の進歩と水平分業の普及です。

たとえば、植物由来シャンプー「ボタニスト」が人気のI―ne(アイエヌイー、本社:大阪市)は、2015年にそれまで数千円の美容室向けシャンプーをメインに手がけていた製造受託企業に生産を依頼し、ネットを中心に1,500円で販売。当時はまだメジャーではなかったInstagramを活用してメインターゲットである20代女性への周知・訴求に成功。さらに購買データを分析し、顧客の一部が4種類ある商品を自分流に組み合わせて使っていることが判明したことから、今年3月には顧客が自分好みの商品を特注できる「マイ・ボタニスト」をスタートしました。「マイ・ボタニスト」は、髪質やクセの有無、香りの好みなどの質問にサイト上で応えると、有効成分や香りなど約2000通り以上の組み合わせの中から、自分に最も適した組み合わせの商品が提案され、気に入れば購入できるというサービス。つまり、顧客が企業の提示する商品の中から自分の好きなものを選ぶのではなく、企業が顧客のニーズに沿った商品を作るという仕組みになっているのが特徴です。

スモールマス市場拡大の流れはアパレルでも起きています。イギリスの人気ファストファッションブランド「boohoo」は、自社サイトに毎日200以上の新商品を掲載、少量のみを生産・販売して、SNS等で消費者の反応を分析、売れそうな商品だけを追加で生産するシステムを採用。売れ残り覚悟で大量生産、大規模プロモーションを続ける従来のマスブランドとは一線を画すマーケティング手法で注目を集めています。

成功の鍵は「顧客データ」の活用

スモールマス市場で成功を収めている企業やブランドに共通するのは、顧客の声やニーズ、購買傾向などをデータ化し、うまく活用している点。SNSの普及やビッグデータの技術進展によって、消費者の年齢層や性別、所得水準、好みや嗜好に合わせた商品開発が可能になっているのです。

たとえば、長野県軽井沢町に本社を置くクラフトビールメーカー「ヤッホーブルーイング」では、SNSのフォロワーを「ファン」と呼び、「ファン」の意見やニーズをデータ化、そのデータを商品開発やマーケティングに活かす姿勢を貫いています。マスをターゲットにせず、「ターゲットは徹底的に狭く絞る」「賛否両論あって良い」「100人に1人が支持してくればよい」という同社の姿勢で客層を絞ったことによって、同社は一部のクラフトビール愛好家からの熱い支持を得ることに成功しているのです。

幼い頃からインターネットやSNSを使いこなし、より「自分らしさ」を追求する傾向が強いZ世代が消費の主役となるこれからの時代、「平均的な商品」の大量生産・大量消費を繰り返してきたマス市場を淘汰する「スモールマス市場」の拡大は、今後さらに多くの業界へと広がりを見せていきそうです。

Z世代についてのCriteoのリポートも併せて御覧ください