日本特有のハンコ文化が、今、大きな転機を迎えています。
今年10月、河野太郎 行革担当大臣が「1万5000の行政手続きのうち、99%の手続きで押印を廃止、もしくは廃止の方向で調整する」と明言。菅義偉 首相も全省庁の行政手続きを対象に、押印廃止や書面・対面主義の見直しを指示すること、そして関係省令を2020年中に改正し、2021年1月召集の通常国会に関連法案の提出を目指す方針を明らかにしました。法案が国会で承認されれば、行政窓口で住民票の写しの請求や、転入・転出届や婚姻届の提出時に必要だった「認印」はほぼ全廃される見込みで、日常生活の中でハンコを使う場面がぐっと減ることになりそうです。
もちろん、行政だけではなく、ビジネスの世界でも「脱ハンコ」が進んでいます。
新型コロナウイルスの影響で社員の在宅ワークが普及する中、決済書類や申請書への押印を見直す動きが広がり、押印を廃止する企業が増えています。
2020年6月にアドビシステムズが中小企業の経営者500名を対象に行った調査でも、全体の74%が「生産性を上げるため、ハンコの慣習はなくしたほうが良い」、72.6%が「ハンコは生産性を下げている」と回答しています。たしかにハンコ文化は、「押印のためだけに出社・移動しなければならない」、「ペーパーレス化が進まない」、「書類に各担当者が押印しないと仕事が進まないので、無駄な待ち時間が生じてしまう」など、生産性低下に繋がりやすく、今後、業務のデジタル化・効率化が進む中で、ビジネスの分野でもハンコを廃止する動きはますます加速するものと見られています。
しかし、ビジネスを進める上で、ハンコが廃止されてしまうと困る点があるのも事実です。たとえば決済書類の場合、誰がその書類の内容に最終的な責任を持つのかを明らかにするために責任者の「押印」が求められていたのですが、ハンコがなくなってしまうと、誰が最終責任者なのかがわかりにくくなってしまいます。また、自社内でハンコを廃止できたとしても、取引先や顧客が押印を求めてくる場面もあるはずです。
そこで今、にわかに注目を集めているのが、電子印鑑のシステムです。電子印鑑はパソコン上で書類に印鑑を押すことができるシステムで、導入すればハンコを押すために出社したり、どこかに移動したりする手間暇を省くことができるというもの。電子印鑑のシステムを開発している会社はいくつかありますが、トップランナーは意外にもハンコメーカーとしておなじみの「シャチハタ」。シャチハタでは電子印鑑を使って決済ができるシステム「パソコン決済cloud」を販売しており、3月の非常事態宣言以降、注文が殺到。3月~6月末までに27万件の電子印鑑の申込みがあったことが報じられています。
もっとも、現状を見る限り、電子印鑑が普及しても、おそらく完全に「ハンコ」が不要になることはないと考えられます。むしろ、今後は案件ごとにハンコの要不要を見極め、場面や相手に応じてハンコと電子ハンコを使い分けられる環境の整備が求められるのではないでしょうか。