「当社では、複数のリターゲターを同じ市場内に混在させないようにしています。混在させるとカニバリゼーション(共食い)によって当社の入札同士で競い合うことになり、同じインベントリに対して2度支払うことになってしまうからです」。– Remix、パフォーマンスマーケティング担当責任者、ウォイチェフ・ソルティーズ(Wojciech Soltys)氏
リターゲティングをすでに利用している、あるいはこれから始めようとしているマーケターの多くが、1つの答えを探るためにさまざまなテストを繰り返しています。「リターゲターは1社に絞るべきか、それとも2社にするべきか?」の答えを探るために、さまざまなテストを繰り返しています。
利用するリターゲターの数は各社それぞれとはいえ、リターゲティングという手法自体は、すでにかなり幅広く浸透しています。Criteoが実施した「アドテクノロジー」調査では、多くのケースでリターゲティングとディスプレイ広告が、最も優れたマーケティング戦術と考えられていることが明らかになりました。それもそのはず、多くのパフォーマンスマーケターがディスプレイ広告の効果を実感しているのです。御社の商品に強い興味・関心を示すサイト訪問者に関連性の高い広告を配信すれば、彼らを追跡・誘導しながら極めて高いROIを達成できるはずです。
通常、こうした手法はリターゲター(リターゲティングパートナー)が提供しますが、1社のリターゲティングパートナーと連携して運用を開始するのが一般的です。しかし、マーケターの脳裏には常に次のような疑問が残ります。「本当に1社だけで十分なのだろうか?」「複数のリターゲターを使った方が、より大きな効果が生まれるのではないか?」
2019年のパブリッシャーの展望
リターゲティングベンダーは現在、さまざまなアプローチや機能を提供しています。 振り返ってみると、2010年代初頭にはパブリッシャーのインベントリ(最終的にはユーザー)に独自のアクセスや排他的なアクセスを提供するリターゲティングベンダーも存在しました。
しかし、リアルタイム入札(RTB)によって広告業界に革新がもたらされたことによって、独自のインベントリやユーザーを抱えるベンダーはごく一部のみとなり 最近では、大半のベンダーが自社の広告インベントリにRTBエクスチェンジを利用しています。しかし、 これらは入札者に対してオープンなため、もはやインベントリやユーザーを排他的に保持・増加させていくものではなくなりました。
しかし、今でもRTBエクスチェンジの枠組みの外では、ベンダーは独自にインベントリを持つことができます。そのメリットを効果的に活用した好例が「Criteo Direct Bidder」なのです。
RTBエクスチェンジの仕組み
優れたオープンなRTBエクスチェンジの場合、 特定のユーザーに配信する広告に対して、すべての広告主が入札できます。 ダイナミックリターゲティングのこの仕組みを利用すれば、特定のユーザーに入札・広告配信する価値を詳しく判定することが可能です。 御社が利用するリターゲティングベンダーがRTBオークションで落札に成功すると、御社の広告が表示されます。その結果としてコンバージョン数が増えると、ROI向上を達成することができます。
利用しているリターゲティングソリューションが1つだけの場合、すべての入札が連携、最適化されてROIが最大化されます。 なぜなら、リターゲティングベンダーは続いて配信される広告の価値を理解した上で、各ユーザーに適切な頻度で広告を配信するからです。
複数のリターゲターを採用する場合
同一のユーザーを対象に、2社のリターゲターがアプローチすると状況は複雑になります。 主に次のような問題が生じるからです。
1.入札衝突
ほとんどのリターゲティング広告は、RTBエクスチェンジを介して販売されています。そのため、同一のユーザーに対して(御社の代わりに)2社が入札することになります。 Criteoでは、これを「入札衝突」と呼んでいます。 文字通り、これは決して好ましくない状況です。 なぜなら、入札競争が生じることによって、1つのインプレッションに対して支払う金額が高くなるからです。
つまり、同じエクスチェンジを利用する2社のパートナーの入札がバッティングしてしまい、最終的にいずれかのパートナーが入札した最高額を支払うことになってしまうのです。
2.フリクエンシーブラインドネス
複数のリターゲターを利用するもう1つのデメリットとして、「フリクエンシーブラインドネス」が挙げられます。 各ユーザーに配信する広告の回数を最適化しながら、各広告の価値を正確に判定することは非常に重要なことですが、 一方のリターゲターが他方のリターゲターと同じ広告を配信した回数を把握していない状況では、どちらのリターゲターも広告の配信頻度を正しく設定することができません。 広告を過剰に表示して、ブランド体験の質を低下させてしまう危険性すらあります。 結局、リターゲターは広告を表示した合計回数を把握できず、各パートナーの入札額はインプレッションが本来もたらすはずの価値に見合わなくなってしまう可能性も十分予想できます。
データから分かること
つまり御社の入札が競合すればするほど、本来の価値が失われてしまうということです。言うなれば、eBayなどのオンラインオークションでアカウントを2つ作って、自分の入札を上回る金額で入札してしまうのと同じことです。 では、入札衝突やフリクエンシーブラインドネスによって生じるROIの低下は、どうすれば算出できるのでしょうか?
その答えを探るために、CriteoはRTBオークション、データサイエンス、マーケティング効果の専門家から成るチームを立ち上げました。 私たちはシミュレーションモデルを作成し、ターゲティングパートナーを1社から2社、さらに3社へと増やした場合の、広告主にもたらされる価値の変化について調査しました。
その結果、入札衝突とフリクエンシーブラインドネスがもたらす影響が明らかになったのです。
調査では1億5,000万回を超える広告表示をシミュレーションし、その際にはリターゲターが1社の場合と2社の場合、さらに3社の場合などさまざまなシナリオで実験を行い、
その後、それぞれのケースで広告主にもたらされる価値について分析、同時にリターゲター間で表示する割合を変えるなど、さまざまなパラメータを調整しながらROIへの影響を計測しました。
結果
2社を利用した場合、1社の時よりもROIが22%低下するとも明らかに。また、3社以上利用した場合、ROIはさらに低下することが分かりました。
調査手法
調査は主に2つのモデルを用いて実施しました。1つは、フリクエンシーブラインドネスの影響を具体的に判定するモデル。もう1つは、フリクエンシーブラインドネスの影響を踏まえた上で入札衝突の影響を判定するモデルです。 後者のモデルでは、広告主にとっての価値の損失=ROIの低下として調査しました。
パート1: フリクエンシーブラインドネス
フリクエンシーブラインドネスがもたらす影響を正確に測定するために、
Criteoでは2社のリターゲターを利用して発生するROIの低下と、その低下の度合いを決定付ける以下の3つの主要な要素を検討することから始めました。
- 各リターゲターが表示する広告の割合
- 同じユーザーに同じ商品が表示された場合にインプレッションの価値が低下する速度
- 特定のユーザーに広告が表示される頻度の平均
また、マーケティング活動を行う上では基本となりますが、 広告の効果は次第に薄れるということを考慮に入れました。 つまり、同じ広告を表示した場合、N回目に表示した広告よりも、N+1回目に表示する広告の方が効果が薄れるということです。 ダイナミックリターゲティングのケースにおいて、Criteoでは配信回数が1回増えるごとに10~20%の広告疲れが発生するという確かなエビデンスを得ています。
表示する頻度は、平均10回を想定しました。 実際の頻度はユーザーによってさまざまですが、7~10日間という期間は、一般的なショッピングでユーザーの購入意欲がピークに達する期間であるため、妥当だと考えています。
最後に、メインのリターゲターが広告の80%を表示する一般的なケースと、各リターゲターが50%ずつ表示するという最悪のケースもテストしました。
そして、各ケースで広告を表示するたびに起きる変化を想定してモデルを作成しました。
- 各ユーザーが別の広告を見る確率を80%と想定することで、平均の頻度を10回としながらも現実に近い配分を再現しました。
- ユーザーが別の広告を見る際には、メインあるいはサブのリターゲターから広告をランダムに選択しました(確率は50%または80%)。
- 各リターゲターの広告の価値は、自社が表示した広告のみに基づいて決定します。たとえば、ユーザー1に対して広告が3回表示されたとします。リターゲター1が1回目と2回目を表示し、リターゲター2が3回目を表示した場合、リターゲター2にとっての広告の価値は3回目の分のみとなります。
- 実際の評価価値の合計とすべての評価価値の合計等の比較によって、フリクエンシーブラインドネスによって生じる過大評価を算出したため、結果は重み付けされています。これがインベントリ購入に要した実際の金額を表すことになります。
以下はフリクエンシーブラインドネスのシミュレーション例です。
上記の説明:
- 表示2回目までは、障害は見られませんでした。リターゲター1が広告を2回適切に表示し、ユーザーへの表示を1回目、2回目として正しく認識しています。 そのため、実際の広告の価値と(広告を表示した)リターゲターが把握している価値は同じになりました。
- しかし、問題は3回目で起こりました。リターゲター2がこの広告を表示しますが、初回の表示と認識しているため、実際の価値は$0.64なのに、$1.00として捉えてしまっています。 表示回数が増えるにつれて、広告疲れによって実際の広告の価値は20%ずつ減少することを思い出してください。
- 4回目は再びリターゲター1が表示していますが、リターゲター2が3回目を表示したことが原因で、リターゲター1は広告を価値を正しく認識できなくなっています。
- こうしたプロセスをユーザー1に広告が表示されなくなるまで続け、その後ユーザー2のプロセスを開始します。
こうした調査によって、2社のリターゲターを利用した場合の過剰入札は平均19%に上ることが分かりました。
パート2: 入札衝突とフリクエンシーブラインドネス
入札衝突とフリクエンシーブラインドネスが広告主のROIに与える影響を調べるために、Criteoでは数百万件に及ぶ入札リクエストをシミュレーションしました。 入札リクエストとは、複数の入札者を対象とするリアルタイム入札(RTB)エクスチェンジにおいて、特定のユーザーへの広告配信に支払う額を各入札者が提示するプロセスです。 ほとんどのRTBエクスチェンジでは、ファーストプライスオークションと呼ばれる方式が採用されており、最も高い金額を提示した入札者が広告を表示する権利を落札することになっています。 今回の調査では、このファーストプライスオークションモデルを採用しました。
各入札リクエストには、広告主が特定のユーザーに広告を表示する際に生じる値がありますが、 これは予測するしかなく、100%の精度で把握することはできません。 優れたパフォーマンスリターゲターは、将来のイベントを高い精度で予測できます。 クラス最高のリターゲティングテクノロジーを使えば、特定のユーザーが広告をクリックしてサイトで購入する確率をほぼ正確に予測することができます。 高性能なリターゲティングソリューションは、広告に反応しやすい高価値なユーザーを認識して入札額を調整することもできます。
Criteoでは、広告表示の実際の価値をeCPMと呼んでいます。
各リターゲターの評価は、次のように行いました。
- まず、表示の実際の価値(eCPM)を検討します。
- すべてのリターゲターに一定の誤差があることを前提に(完全には予測できないため)、正規分布のランダムな数量をもとにeCPMの値を調整します。
- 前述の「フリクエンシーブラインドネス」のセクションで特定した過剰入札は、eCPMを増やして調整します。Criteoのフリクエンシーブラインドネスのテストの結果から、誤差は平均19%の指数分布とします(0%以上でなければならないため)。
各リターゲターについての評価が完了したら、広告表示にかかった金額が実際の価値よりも低いことを考慮して、入札額を「シェーディング(小さく)」する必要があります。 ここでは保守的なアプローチを採用し、すべてのリターゲターが最適な入札シェーディング戦略をとると仮定しました(ただし、最適な入札シェーディングの計算には膨大なデータが求められるため、実際にはそうはいきません)。
最後に、各リターゲターの実際の入札額を用いてオークションをシミュレーションします。
- すべてのリターゲターの入札額をオークションに入力します。
- そのオークションで最高額を入札したリターゲターが、他のすべての入札者に対して上位に位置付けられます。
- 実際の入札の勝率を用いてマーケットプレイスの環境を再現します。
- たとえば、リターゲターによる最高入札額が$2.15なら、そのオークションで落札できる確率は22%と予測できるということです。
- 落札率は「対数正規分布」になります。つまり、最初は緩やかに、その後加速し、再び緩やかになる曲線を描きます。いわゆる「S」カーブです。
- 低額の入札額を増やしても($0.1から$0.3に増やすなど)、そものもの勝率が低いため大きく影響しません。しかし、分布の中央付近では勝率が最も急速に高まるため($1.3から$1.5に増やすなど)、影響は大きくなります。
- そして入札額が最も高いエリアは、最も低い部分と同様の状況になります。つまり、入札額を$10から$10.2に増やしても、勝率がすでに十分に高いため、大きな影響は出ないのです。
- リターゲターがオークションで落札すると、その金額がリターゲターに請求され、広告主にとっての価値が算出されます。
こうした入札リクエストを何百万回と繰り返すと、広告主がリターゲターと連携する実際の状況をシミュレーションすることができます。そして利用するリターゲターを1社、2社、3社と仮定して作成したモデルによるテストの結果が、 上記の内容です。
御社の提携しているリターゲターが1社のみの場合は、それがクラス最高のソリューションであることを確認した上で運用を続けましょう。2社以上と提携している場合には、調査・分析して1社に絞り込んでください。1社に絞れば、同じコストで高いROIを達成できます。
リターゲターが1社の場合と2社の場合の違いを分析する場合には、テストする前と後を比較・分析するとよいでしょう。CookieのプールをAグループとBグループに分割し、Aグループにはリターゲター1社、Bグループにはリターゲター2社を割り当て、合計支出額は両方のグループを合わせて同じにし、各グループの全売上(帰属された売上ではなく)を測定します。
Criteoの同業他社の方はもとより、Criteoのお客様なら、リターゲターは2社ではなく1社に絞るべき理由がよく分かりいただけたのではないでしょうか。
リターゲティングについてさらに詳しく知りたい方は、Criteoのリターゲティングハブをご覧いただくか、Criteoのクイックガイド「御社のリターゲターは1社?それとも2社?」をぜひダウンロードしてお読みください。