高まる戸建て志向
「ニューノーマル」と言われたコロナ禍の生活が長くなり、もはや今の生活が「ノーマル」なものに感じられつつある中、
不動産市場にも、さまざまな変化が起きています。その背景として指摘されているのが、消費者の住まいに関する意識の変化。リモートワークの普及や外出自粛で在宅時間が増えたこと、通勤回数が減ったことなどを理由に、住まいのあり方を見直す人が増えていると言われています。
リクルート住まいカンパニーが行った調査では、回答者のうち約7割に、コロナによって住まいに求める条件の変化が起きていることがわかりました。同調査で、住宅に求める要素にどのような変化があったかを聞いたところ、最も多かったのが「仕事専用スペースが欲しくなった」(25%)、他にも「広いリビングが欲しくなった」「収納量が欲しくなった」(ともに22%)など、住宅に広さを求めるようになったという声が多く聞かれました。また、2番目に多かったのは「宅配ボックス・置配ボックスを設置したくなった」(24%)で、外出自粛を受けた通販購入の増加を示す結果となりました。
同時に「通風に優れた住宅に住みたくなった」(23%)、「日当たりの良い住宅が欲しくなった」(21%)、「庭が欲しくなった」(17%)など、住まいの快適さを求めるようになった人も目立ちました。
こういった意識の変化を背景に、人気を集めているのが戸建て住宅です。同調査によると、「コロナの影響で購入を検討している住宅の種類が変わった」と回答している人のうち50%が「当初マンションを検討していたがコロナの影響で戸建に変わった」と回答。在宅ワークや在宅学習のために自宅で過ごす時間が増えた影響で、交通の利便性や職場へのアクセスよりも、ストレスなく過ごせる広さやゆとりを重視する人が増え、結果として、新築分譲マンションより広くて価格の安い戸建てを選ぶ人が増えたものと考えられます。今後、オフィスへの通勤が前提のワークスタイルから在宅勤務も選べるワークスタイルへのシフトが進めば、戸建て志向はますます高まっていくものと考えられます。
高騰する新築マンション価格~首都圏は過去最高に
戸建て人気の背景としては、コロナ禍によるライフスタイルの変化以外に、「新築マンション価格の高騰」を指摘する声も聞かれます。同じくリクルート住まいカンパニーが2020年1月~2020年12月に首都圏(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県)で新築分譲マンションの購入契約者を対象に行った「2020年首都圏新築マンション契約者動向調査)」によると、2020年に首都圏でマンションを購入した人の平均購入価格は、調査開始以降最も高い5538万円。購入価格が5000万円以上だった人が全体の55%を占めていることがわかりました。
新築マンション価格高騰の理由については、次のような点が指摘されています。
- 建材や人件費の高騰
- 超低金利政策で高額の住宅ローンを借りやすい状況が続いている
- 共働きで夫婦ともに高収入の「パワーカップル」が買い支えている
- コロナによる工期の遅れで物件の供給が減っている
東京オリンピックが終了したため、建材や人件費、土地価格は落ち着くものとみられていますが、共働きの増加や低金利政策はこの先も続くと考えられるため、首都圏では新築マンション価格の高騰が続くという見方が有力です。
4か月連続転出超過。増える東京転出者
テレワークの普及を背景に、増えたと言われるのが大都市から地方への移住です。「都会に住まなくても仕事ができる」「感染リスクの低い場所に住みたい」「広い家でストレスを溜めずに在宅ワークをしたい」などの理由から、地方に移住した人が各種メディアで取り上げられ、注目を集めました。
内閣府の「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」でも、コロナの影響で地方移住に「関心が高くなった」または「関心がやや高くなった」と回答した人の割合は全体の15%に上っています。特に東京23区に住む20代の関心は高く、全体の35.4%が地方移住に「関心が高くなった」または「関心がやや高くなった」と回答しています。
実際に東京からの転出者は増えており、総務省の調査では2021年8月の東京都の人口の動きは、転入が2万6727人、転出が3万90人で、転出が転入を3363人上回り、4か月連続で「転出超過」となっています。仮にコロナ収束後もテレワークがワークスタイルとして定着すれば、地方への移住は引き続き増えていくかもしれません。
このように、不動産市場にも様々な影響を及ぼしたコロナ禍。これらの変化はコロナウイルスの感染収束後も継続するのか、それとも収束後はまた別の方向に変化するのか、今後も注意深く状況を見守りたいものです。