デジタル動画広告:現状と今後の傾向を探る

更新日 2021年01月13日

2018年の最後の四半期を迎えるにあたり、本ブログではデジタル動画広告市場の現状について、あらためて理解を深めたいと思います。

デジタル動画広告について調べていると、「インストリーム」「プレロール」「インバナー」など、多くの専門用語を目にします。そこでまず、これらの用語について簡単におさらいをしておきましょう。デジタル動画広告とは、インターネット(3G、4G、ファイバー、xDSLなど)を通じて配信され、デバイス(ノートPC、スマートフォン、タブレット、テレビ)に表示される広告のうち、動画を含む広告のことを指します。

以下でさらに詳しく見ていきましょう。

2種類の動画広告フォーマット

1. 「インストリーム」:動画コンテンツの前、中間、後に流される広告です。それぞれ、プレロール、ミッドロール、ポストロールと呼ばれ、テレビCMと同様の手法をとります。

2.「アウトストリーム」:標準的なバナー広告枠で動画広告を配信するフォーマットです。アウトストリーム動画広告にはさまざまな名称があり、インディスプレイ動画、インバナー動画、リッチメディア広告、動画インタースティシャル、インセンティブ動画、インフィード動画などとも呼ばれています。

こうした呼び名があるということは、動画という広告フォーマットが市場に広く浸透していることの表れとも言えますが、デジタルの専門家は動画が持つ潜在的なパフォーマンスは、いまだに十分な活用がなされていないと指摘しています。その理由を探るために、広告主、パブリッシャー、ユーザサイドの3つの角度から動画広告について検証してみましょう。

1. 広告主の視点

増加傾向にある広告投資

video accounts for 30% of ads

動画は、米国におけるディスプレイ広告投資全体の30%以上を占めています。

現在、デジタル動画広告市場は世界中で急成長を遂げています。IAB(インタラクティブ・アドバタイジング・ビューロー)の予想では、米国における動画広告への投資額(インストリームおよびアウトストリームの両方)は、2018年には150億ドルに達する見込みで、これは2017年(119億ドル)比で20%の増加、2016年(89億ドル)比で40%の増加となります。

また、これらの数字を別の観点から見てみると、動画は米国におけるディスプレイ広告投資全体の30%以上を占め、昨年はモバイル動画の収益がデスクトップ動画の収益を上回っていることがわかります。

ヨーロッパでも同様の傾向が見られます。動画広告投資は推定で53億ユーロ、ヨーロッパにおけるディスプレイ広告(バナー+動画)全体の27%を占めています。

アジア太平洋地域の場合、韓国と日本はデジタル動画広告への投資では比較的小規模な市場と見られていますが、モバイル動画広告への投資成長率は前年比でそれぞれ1000%と900%と急速な成長を見せています。

現時点で2019年の展望を判断するのは早計ではありますが、この世界的な傾向が減速、あるいは停止することは、まずありえないでしょう。IABが2018年前半に行った調査では、米国の回答者の80%が、「今後12カ月で動画投資を増加させるだろう」と回答しています。

広告投資はどこへ行くのか?

IAB Europe survey

広告主の73%、代理店の89%が、デジタル動画広告キャンペーンでブランドアウェアネス向上を図っています(IAB Europeによる調査)

現在の動画キャンペーンは、主にブランドアウェアネスの向上とトラフィック、インタラクション、再生(視聴)完了率の最大化を目的としています。IAB Europeが2018年3月に発表した調査では、以下のような結果が報告されています。

”デジタル動画広告では、ストーリー性を持たせ、ショッピングジャーニー全体で顧客とのエンゲージメントを深めることが一般的になっている。広告主の73%、代理店の89%がデジタル動画広告キャンペーンでブランドアウェアネスの向上を図ろうとするのも、このためです”

実際、多くの広告主がテレビCMによるキャンペーンでユーザへのリーチを向上させたいと考えています。つまり、広告主はテレビCMの場合と同様、ブランドアウェアネス向上に期待してデジタル動画広告に予算を投じているのです。このため、テレビ広告向けの予算を管理しているチームが、デジタル動画広告の予算管理を兼務しているケースも見られます。

こうした傾向は、IABが2018年に行った調査からも見てとれます。この調査結果によると、米国の動画ディスプレイ広告の45%が上位ファネル、49%が中位ファネルでの目的達成に利用され、下位ファネル向けの広告は12%にとどまっています。

従来、動画の予算が対下位ファネルに割かれるケースは多くありませんでした。しかし、最近はこの層でも動画を使ったさまざまな試みが広がりつつあります。たとえば、CriteoではDynamic Creative Optimization+テクノロジーを駆使したインタラクティブ動画フォーマットを提供して、販売の加速を目指すマーケターを強力にバックアップしています。

より大規模で、かつ望ましい動画広告市場を目指して

当分の間は成長が見込まれる動画広告ですが、すでに市場の拡大を阻害しかねないいくつかの制約も見られるようになっています。

専用の動画広告のインベントリでビューアビリティ(可視性)を測定することの複雑さも、制約の1つです(動画広告の標準規格であるVASTまたはVPAIDが求められる)。パブリッシャーには、広告主から求められた場合、動画が適切に視聴できるプレイヤーで再生されていることを証明する義務が課されています。この点について、IAB Europeは、次のように述べています。

“広告主の約半分は、デジタル動画広告キャンペーンのビューアビリティを知りたいと思っています。その理由として、デジタル動画広告インベントリに要するコストが比較的に高額であることが考えられます”

従来の動画広告の規格ではこれに応えることはできませんでしたが、VPAID規格なら、ビューアビリティを的確にレポートすることができます。しかし、これは本来の目的(JavaScriptコードはインタラクティブ性を確保するために使用される)ではないため、パブリッシャーの間ではあまり一般的ではありません。なお、従来のVAST規格では、ビューアビリティをレポートすることはできませんでした。

しかし今年6月、IABが最新版のVAST規格(4.1)と「Open Measurement Interface Definition」および「OM SDK」との互換性を発表するという、待望のニュースが入ってきました。これによって、VAST専用のインベントリを使用するパブリッシャーのビューアビリティの計測が可能となったのです。すべてのパブリッシャーがこのソリューションを利用できるようになるまでにはもう少し時間がかかりますが、市場は確実に望ましい方向へと進んでいます。

2. パブリッシャーの視点

需要に応える

IAB and Statista

米国のデジタル動画広告収益の55%(約75億ドル)は、オープンなインターネットパブリッシャーが占めることになります(IABおよびStatista)

ウォールドガーデン内に大規模な動画広告インベントリが存在することは、もはや周知の事実です。その一方で、オープンなインターネットパブリッシャーは今、動画広告に関するさまざまな戦略を打ち出しています。

IABStatistaの調査によると、米国のデジタル動画広告収益の55%(約75億ドル)は、オープンなインターネットパブリッシャーが占めることになるとしています。

とはいえ、世界中の広告主からの需要が高いがゆえに、パブリッシャーが彼らの需要に対応できるキャパシティを提供できているかどうかについては疑問が残ります。たとえばIABは、ヨーロッパ市場における利用可能なインベントリに懸念を示しています。

“デジタル動画広告インベントリの供給は、まだ十分とは言えない状況にあります”

現時点ではパブリッシャーによる供給は需要をはるかに下回っているかもしれませんが、デジタルデバイスにおける動画の消費は今後ますます増加していくと予想されるため、動画広告のインベントリもそれと同時に増加していくことになるでしょう。Cisicoは昨年、2021年までに世界のインターネットトラフィックの80%は動画が占めることになると試算しました。

“インターネットにおける動画のライブ配信はトラフィックの大部分を占めるようになり、これまでテレビの視聴に使われていた時間の大部分は、インターネット動画の視聴に使われるようになる可能性があります”

また、2017年にはインターネットの動画トラフィックの3%を占めていたライブ配信動画は、2021年までに13%に達すると見込まれています。ライブ動画は広告コンテンツの提示に非常に適しているため、アドレサブルTVテクノロジーの発展に伴って、デジタルデバイスとテレビの両方で利用可能なインベントリは増加していくことになるでしょう。

取引方法の進化

インベントリの販売に使われる取引手法もまた、動画市場の進化を左右する重要な要素です。eMarketerの報告によれば、2018年のディスプレイ広告市場において、米国の広告投資の80%がプログラマティックに取引されたものであるとされています。では、動画広告の場合はどうでしょうか?

世界のデジタル動画広告の取引では、インベントリの直接販売が大部分を占めている一方で、プログラマティックに生成されたデジタル動画は半分にも達していません(2018年は44%)。とはいえ、29%だった2016年からは55%の増加を見せています。

ここで確実に言えることは、動画広告市場はディスプレイ広告市場よりも数年後れて同じ道筋をたどり、取引の手法でもディスプレイ広告と同様のトレンドを追うことになるということです。これを裏付けるように、2018年は米国の動画広告の74%がプログラマティックに取引されています。

インベントリの質について

business insider

英国の2017年におけるオンライン動画広告投資のうち56%が、アウトストリーム動画広告を対象とした投資でした(Business Insider)

パブリッシャーの場合、インベントリの質が市場成長のカギとなります。前述したとおり、動画広告のインベントリにはインストリームとアウトストリームの2種類の広告フォーマットがあります。それぞれに長所と短所がありますが、各広告主にとって最適なフォーマットは異なります。

インストリームのインベントリは、動画ストリーミングの合間に配信されることからユーザを画面に引き付けておくことができます。そのため定性的かつ効果的と考えられていますが、インベントリの量が限られているためコストが高額になりがちです。

一方でアウトストリームのインベントリには、その逆のメリットがあります。オープンなインターネット上で広範なリーチを実現できますが、広告主の評価はパブリッシャーの環境に左右されます。

そのためヨーロッパと米国では、インストリーム市場が引き続きデジタル動画広告投資の対象となります。しかし、特にテレビの範囲を超えてそのリーチを拡大しようとする広告主にとって、アウトストリーム動画広告が今後ますます威力を発揮し始めるということは注目に値します。実際、Business Insiderは、イギリスにおける2017年のオンライン動画広告投資の56%が、アウトストリーム動画広告への投資だったと報じています。

動画広告の将来について、誰にも確かなことはわかりません。しかし、インストリームとアウトストリームが世界中で同じように使用され、英国と同様の傾向が進むことは、ほぼ間違いないでしょう。

3. ユーザの視点

動画コンテンツの消費

使用するデバイスを問わず、ユーザの動画コンテンツへの関心がますます高まりつつあることを受け、広告業界でもデジタル動画広告に対する注目度が高まりつつあります。その一方で、デジタル動画の台頭により、従来のメディアはその基盤を失い続けています。Business Insiderは記事の中でPublicis MediaグループのZenithによるレポートを引用し、次のように述べています。

“世界のオンライン動画コンテンツの消費は2020年まで毎年9分ずつ増加しています。その一方で、世界中でテレビの契約解除が加速すると思われます”

2020年には世界の消費者がオンライン動画の視聴に費やす時間は1日あたり84分になると予測されており、これは2018年の67分から25%の増加となります。この増加はNetflixなど広告のない動画プラットフォームに大きなメリットをもたらすだけでなく、ビデオ・オン・デマンド(VOD)プラットフォームの広告も一定の恩恵を得ることになるでしょう。

より優れたユーザ体験を目指して

動画コンテンツを目的にインターネットを利用するユーザが増えるに伴って、優れた広告を提供して、ユーザ体験を高めることが極めて重要になってきました。

中でも成功のカギとなるのは、インタラクティブで有意義なクリエイティブの活用です。従来のテレビCMのような30秒の動画ではなく、できる限り短い動画に仕上げることが重要です。特に、モバイルデバイスで視聴される動画には、これが必須要件となります。また、YouTubeのCTAオーバーレイなど、クリエイティブ要素を使ってインタラクティブ性を高めることにより、ユーザとのエンゲージメント向上を図っても良いでしょう。

さらに、パブリッシャーが積極的にスキップボタンを動画に取り入れることもユーザ体験の向上につながります。IAB Europeが2018年3月に発表したレポートでも、スキップ可能なインベントリがスキップ不可のインベントリを追い上げていると報告されています。

今後の展望

どの視点から見ても疑問は残りますが(特にビューアビリティの計測、新しい規格の採用率、インベントリの質について)、デジタル動画広告の進化には明るい面もたくさんあります。エンゲージメントの向上が期待でき、効果測定のテクノロジーも整いつつある現在、動画こそがデジタル広告の主流となることは、あらゆる指標や傾向からも明らかです。今後も動画をめぐる最新の傾向にご注目ください。